【SOPRA・VIVERE】1章-1
1章「淀」
生成り色をしたカーテンを通して、太陽の光が差し込む。窓の外から街の喧騒が微かに聞こえてくる。
――うるさいな。疲れているんだ。もう少し眠らせて…………。
シャルティエルは慌てて起き上がり、自分が眠っていた場所の手触りを確認する。柔らかい寝台の上だった。
白ろ茶だけで纏められた簡素な小部屋には寝台の他にチェストがあるだけだった。その上に、自分の羽織っていた上着は綺麗に畳んで置いてあったし、剣もその横に立て掛けてある。
シャルティエルは寝台の上から腰を下ろし薄手のカーテンに手をかけると、太陽の光がシャルティエルの目を刺激した。
窓の外では、漆喰の家々が立ち並び、きちんと舗装された石畳の上を華やかな衣服を纏った人々が行き交っていた。
昼なので明かりは点いていないが、錆鼠の背の高い街灯が等間隔で石畳の上に並んでおり、窓を開けてもう少し遠くを見れば市場のようなより賑やかな通りも見える。
その華やかさは、シャルティエルが恩師と暮らしていた里とは比べ物にならない。
盗られたものも無ければ、完全に閉じ込められたわけでもない。おまけにどこかの街に辿り着くことが出来た。
「一体、どうやって……」
シャルティエルは記憶を手繰り寄せる。
夜間の山道で見つけた山小屋。その中に無造作に置かれた骨董品と横たわっていた女。そして夜盗の下品な笑い声。
隠れて様子を伺っていたものの、女が暴れたせいで自分もとばっちりを受けた。実戦経験はまだ無かったが、どうにかこうして生きている。
明かりの魔法を夜盗の眼前で使って牽制した。そこから記憶は無い。
「やってしまった」
シャルティエルはため息をついた。
修行時代、恩師から剣と体術以外に魔法の手解きも受けたが、さっぱり上達しなかった。魔法の修練をすると、なぜか体調を崩したり、気を失ったりしていた。
それを宝の持ち腐れなどと散々恩師に罵られ、よく喧嘩をした。
餞別として恩師が自分にこの白銀の剣を授ける時にも、皮肉を言われた。
――もし魔法を使わなければならなくなった時、この剣ならあなたの「どうしようもなく下手糞な素晴らしい魔法」を補ってくれるから。
……嫌なことを思い出した、とシャルティエルは首を振る。
ともかく、そこで記憶は途切れていた。無意識に足が動いて山を越える事が出来た……それは有り得ない。
「そういえば、あの女は」
山小屋で眠っていた女は、か弱そうな女だった。あの女が自分の足で山を超えるということは出来そうにも無い。靴も無くしていた。そうかと言って、もしあの女が本当にどこかに売り飛ばされたのであれば、恐らく自分は無事では済んでいない。
シャルティエルが考え込んでいると、不意に扉が静かに小さな音を立てて開いた。シャルティエルは向き直り少し身構えて、また力を抜いた。
「! あんたは」
「あ……」
お互いの驚きが重なり合う。扉を開けたのは、髪を纏め上げていたので一瞬解らなかったが確かにあの山小屋にいた女だった。
一体これから何をするつもりだったのか、女は木製の盆を両手で持っていてその上には櫛と、湯を張った銀製の洗面器と布が置かれている。
「エ、エドウィン! 彼がっ」
女は頬を薔薇色にして、ぱたぱたと部屋を出て行った。
「何しに来たんだよ……」
シャルティエルは肩をすくめた。
To be continued……
→訂正してみた。
まぁ、こっちの方が解りやすいかも?
生成り色をしたカーテンを通して、太陽の光が差し込む。窓の外から街の喧騒が微かに聞こえてくる。
――うるさいな。疲れているんだ。もう少し眠らせて…………。
シャルティエルは慌てて起き上がり、自分が眠っていた場所の手触りを確認する。柔らかい寝台の上だった。
白ろ茶だけで纏められた簡素な小部屋には寝台の他にチェストがあるだけだった。その上に、自分の羽織っていた上着は綺麗に畳んで置いてあったし、剣もその横に立て掛けてある。
シャルティエルは寝台の上から腰を下ろし薄手のカーテンに手をかけると、太陽の光がシャルティエルの目を刺激した。
窓の外では、漆喰の家々が立ち並び、きちんと舗装された石畳の上を華やかな衣服を纏った人々が行き交っていた。
昼なので明かりは点いていないが、錆鼠の背の高い街灯が等間隔で石畳の上に並んでおり、窓を開けてもう少し遠くを見れば市場のようなより賑やかな通りも見える。
その華やかさは、シャルティエルが恩師と暮らしていた里とは比べ物にならない。
盗られたものも無ければ、完全に閉じ込められたわけでもない。おまけにどこかの街に辿り着くことが出来た。
「一体、どうやって……」
シャルティエルは記憶を手繰り寄せる。
夜間の山道で見つけた山小屋。その中に無造作に置かれた骨董品と横たわっていた女。そして夜盗の下品な笑い声。
隠れて様子を伺っていたものの、女が暴れたせいで自分もとばっちりを受けた。実戦経験はまだ無かったが、どうにかこうして生きている。
明かりの魔法を夜盗の眼前で使って牽制した。そこから記憶は無い。
「やってしまった」
シャルティエルはため息をついた。
修行時代、恩師から剣と体術以外に魔法の手解きも受けたが、さっぱり上達しなかった。魔法の修練をすると、なぜか体調を崩したり、気を失ったりしていた。
それを宝の持ち腐れなどと散々恩師に罵られ、よく喧嘩をした。
餞別として恩師が自分にこの白銀の剣を授ける時にも、皮肉を言われた。
――もし魔法を使わなければならなくなった時、この剣ならあなたの「どうしようもなく下手糞な素晴らしい魔法」を補ってくれるから。
……嫌なことを思い出した、とシャルティエルは首を振る。
ともかく、そこで記憶は途切れていた。無意識に足が動いて山を越える事が出来た……それは有り得ない。
「そういえば、あの女は」
山小屋で眠っていた女は、か弱そうな女だった。あの女が自分の足で山を超えるということは出来そうにも無い。靴も無くしていた。そうかと言って、もしあの女が本当にどこかに売り飛ばされたのであれば、恐らく自分は無事では済んでいない。
シャルティエルが考え込んでいると、不意に扉が静かに小さな音を立てて開いた。シャルティエルは向き直り少し身構えて、また力を抜いた。
「! あんたは」
「あ……」
お互いの驚きが重なり合う。扉を開けたのは、髪を纏め上げていたので一瞬解らなかったが確かにあの山小屋にいた女だった。
一体これから何をするつもりだったのか、女は木製の盆を両手で持っていてその上には櫛と、湯を張った銀製の洗面器と布が置かれている。
「エ、エドウィン! 彼がっ」
女は頬を薔薇色にして、ぱたぱたと部屋を出て行った。
「何しに来たんだよ……」
シャルティエルは肩をすくめた。
To be continued……
→訂正してみた。
まぁ、こっちの方が解りやすいかも?
【SOPRA・VIVERE】1章-2
女は慌てて部屋を出て行ったかと思うと、暫くして一人で戻ってきた。
「エドウィンたら、どこに行ったのかしら……さっきまでいたのに」
「……ここはあんたの家?」
シャルティエルは眉をひそめて女に尋ねた。首を傾げていた女は弾かれたようにシャルティエルの方を見て、頬を紅潮させた。
「ええ、そう……私の家よ。エドウィンがあなたをここまで運んでくれたの。けど、今エドウィンはいないみたい」
まごつきながらも女は微笑んで答えた。
「あの……わたしはモニカ。モニカ=オルシーニと言います」
オルシーニ。このエテルニナ市国で苗字を持つことが出来るのはほんの一握りの人間だけだ。国家に貢献している者か、かつて貴族と呼ばれていた者たちか。
どちらにしてもこの女、モニカは本物の令嬢であることには変わりない。あの夜盗たちも、恐らく彼女の素性を解っていたから連れ去ったに違いない。
「本当に目が覚めて良かった。だって、二日も眠ったままだったから」
「二日」
魔法を使ってここまで潰れたのは、どれだけぶりだろう。シャルティエルは思い返して深くため息をついた。
「それで、あなたは」
「そういえば、あの夜盗は?」
女が何か言いかけたが、それを遮りシャルティエルが続け様に質問する。
「……エドウィンが警備隊の所へ連れて行ったと言っていたわ。あの人たちは最近国のあちこちを荒らしてた人たちだったから……」
モニカは表情を肩を小さく震わせて答えた。あれからまだ二日しか経っていないのだから無理もない。シャルティエルは小さく素直に謝った。
「さて、じゃあ俺はそろそろ……」
シャルティエルは立ち上がり上着を羽織ると、自分の剣とトランクを手に取った。
「? 出掛けるの?」
「そうじゃない。いつまでもここにいても仕方ないから宿を探しに行く」
「でも、今は」
モニカはシャルティエルを引き止めるように腕を引いた。
「二日間も寝かせてくれてありがとう。それじゃ、さようなら」
シャルティエルはモニカの手を振り解いて部屋を後にした。
To be continued……
→遅くなってサーセンw 今回はあまり進展ナシ;
「エドウィンたら、どこに行ったのかしら……さっきまでいたのに」
「……ここはあんたの家?」
シャルティエルは眉をひそめて女に尋ねた。首を傾げていた女は弾かれたようにシャルティエルの方を見て、頬を紅潮させた。
「ええ、そう……私の家よ。エドウィンがあなたをここまで運んでくれたの。けど、今エドウィンはいないみたい」
まごつきながらも女は微笑んで答えた。
「あの……わたしはモニカ。モニカ=オルシーニと言います」
オルシーニ。このエテルニナ市国で苗字を持つことが出来るのはほんの一握りの人間だけだ。国家に貢献している者か、かつて貴族と呼ばれていた者たちか。
どちらにしてもこの女、モニカは本物の令嬢であることには変わりない。あの夜盗たちも、恐らく彼女の素性を解っていたから連れ去ったに違いない。
「本当に目が覚めて良かった。だって、二日も眠ったままだったから」
「二日」
魔法を使ってここまで潰れたのは、どれだけぶりだろう。シャルティエルは思い返して深くため息をついた。
「それで、あなたは」
「そういえば、あの夜盗は?」
女が何か言いかけたが、それを遮りシャルティエルが続け様に質問する。
「……エドウィンが警備隊の所へ連れて行ったと言っていたわ。あの人たちは最近国のあちこちを荒らしてた人たちだったから……」
モニカは表情を肩を小さく震わせて答えた。あれからまだ二日しか経っていないのだから無理もない。シャルティエルは小さく素直に謝った。
「さて、じゃあ俺はそろそろ……」
シャルティエルは立ち上がり上着を羽織ると、自分の剣とトランクを手に取った。
「? 出掛けるの?」
「そうじゃない。いつまでもここにいても仕方ないから宿を探しに行く」
「でも、今は」
モニカはシャルティエルを引き止めるように腕を引いた。
「二日間も寝かせてくれてありがとう。それじゃ、さようなら」
シャルティエルはモニカの手を振り解いて部屋を後にした。
To be continued……
→遅くなってサーセンw 今回はあまり進展ナシ;
【SOPRA・VIVERE】1章-3
「すまないね。うちはしばらく満室だよ」
同じような台詞を言われたのは六回目。歩ける範囲で回れる宿屋は全て回ったが全て断られ、シャルティエルはうなだれた。
その傍らを、白い法衣を纏った短髪の少年が通り過ぎる。片手に厚手の本を抱え、こちらを見向きもせずに悠然と階段を上っていくその少年を見送り、シャルティエルは深くため息をついた。
このまま部屋が取れなかったらどうなるのか。街灯の薄明かりと、空の下で震えながら眠っている自分の様がもやもやと浮かび上がる。
浮かんで、シャルティエルはかぶりを振った。
「どうしてどの宿も満室なの?」
シャルティエルが宿屋の店主に尋ねると、店主は目を丸くした。
「ここ最近、組織ぐるみの強盗や人攫いが頻繁でね。警備隊もどうにかしようと必死なんだが、なかなか尻尾が掴めない。それでそいつらを市外に逃亡させないために市民の外出が規制されてるのさ。特に旅行者は厳しく取り締まられている」
店主の言っている集団はモニカを攫った連中のことだと、シャルティエルは気付いた。迷惑な話だ。
「しかし……この規制は一週間前から始まったことだから、今更宿のない旅行者なんていないはずなんだがねぇ」
説明するだけして、店主はシャルティエルを上から下まで見定めた。シャルティエルは顔を引きつらせる。
「それは……」
訝しげな顔でシャルティエルを睨み付ける店主に耐え切れず、思わず後ずさった。
「こんなところにいたのね!」
シャルティエルが振り返ると、モニカが長い髪を揺らして扉を開けて入ってきた。
「どうして、あんたが」
と、眉を寄せるシャルティエルの横にモニカは並んだ。店主は目を丸くしてシャルティエルと彼女を交互に見やる。
「この人はわたしの遠縁にあたる方で、都市警備隊の候補生よ。道中で何か問題があったみたいで、それで街に着くのが一週間も遅くなってしまったの」
あまりに流暢で迷いのない作り話に、シャルティエルは呆気に取られた。
「なんと、お嬢様のご親戚の方でしたか! それは大変な目に遭われて……」
店主は手のひらを返したかのようにモニカにはもちろん、シャルティエルにも愛想をする。その態度の変わりように半身を引いてしまった。
「さあ、行きましょう。お部屋は用意してあるわ」
モニカは店主に小さく頭を下げ、シャルティエルの手を引いて宿屋を後にした。
「都市警備隊の候補生? 俺が?」
石畳で舗装された遊歩道の上、モニカのやや後ろを歩きシャルティエルは苦笑する。
「咄嗟の嘘だったけど、別に不自然なことじゃないわ。あなたくらいの年の人で、他の町から志願に来る人はたくさんいるもの」
振り返らずモニカは言った。本当かね、とシャルティエルは呟き都市警備隊の制服を纏い人々の安全を守る自分を想像しようとする。全く出来なかった。
「……誰が誰の親戚だって?」
「しばらくは、遠縁の“お兄さま”という事で」
シャルティエルには、モニカのその言葉がとても嬉しそうに弾んでいるように聞こえた。
それで、とモニカは思い出したかのように振り返り、困ったようなはにかんだ笑みをシャルティエルに見せた。
「あなたのお名前は何て言うんですか?」
To be continued……
お兄さま……涙が(ry
同じような台詞を言われたのは六回目。歩ける範囲で回れる宿屋は全て回ったが全て断られ、シャルティエルはうなだれた。
その傍らを、白い法衣を纏った短髪の少年が通り過ぎる。片手に厚手の本を抱え、こちらを見向きもせずに悠然と階段を上っていくその少年を見送り、シャルティエルは深くため息をついた。
このまま部屋が取れなかったらどうなるのか。街灯の薄明かりと、空の下で震えながら眠っている自分の様がもやもやと浮かび上がる。
浮かんで、シャルティエルはかぶりを振った。
「どうしてどの宿も満室なの?」
シャルティエルが宿屋の店主に尋ねると、店主は目を丸くした。
「ここ最近、組織ぐるみの強盗や人攫いが頻繁でね。警備隊もどうにかしようと必死なんだが、なかなか尻尾が掴めない。それでそいつらを市外に逃亡させないために市民の外出が規制されてるのさ。特に旅行者は厳しく取り締まられている」
店主の言っている集団はモニカを攫った連中のことだと、シャルティエルは気付いた。迷惑な話だ。
「しかし……この規制は一週間前から始まったことだから、今更宿のない旅行者なんていないはずなんだがねぇ」
説明するだけして、店主はシャルティエルを上から下まで見定めた。シャルティエルは顔を引きつらせる。
「それは……」
訝しげな顔でシャルティエルを睨み付ける店主に耐え切れず、思わず後ずさった。
「こんなところにいたのね!」
シャルティエルが振り返ると、モニカが長い髪を揺らして扉を開けて入ってきた。
「どうして、あんたが」
と、眉を寄せるシャルティエルの横にモニカは並んだ。店主は目を丸くしてシャルティエルと彼女を交互に見やる。
「この人はわたしの遠縁にあたる方で、都市警備隊の候補生よ。道中で何か問題があったみたいで、それで街に着くのが一週間も遅くなってしまったの」
あまりに流暢で迷いのない作り話に、シャルティエルは呆気に取られた。
「なんと、お嬢様のご親戚の方でしたか! それは大変な目に遭われて……」
店主は手のひらを返したかのようにモニカにはもちろん、シャルティエルにも愛想をする。その態度の変わりように半身を引いてしまった。
「さあ、行きましょう。お部屋は用意してあるわ」
モニカは店主に小さく頭を下げ、シャルティエルの手を引いて宿屋を後にした。
「都市警備隊の候補生? 俺が?」
石畳で舗装された遊歩道の上、モニカのやや後ろを歩きシャルティエルは苦笑する。
「咄嗟の嘘だったけど、別に不自然なことじゃないわ。あなたくらいの年の人で、他の町から志願に来る人はたくさんいるもの」
振り返らずモニカは言った。本当かね、とシャルティエルは呟き都市警備隊の制服を纏い人々の安全を守る自分を想像しようとする。全く出来なかった。
「……誰が誰の親戚だって?」
「しばらくは、遠縁の“お兄さま”という事で」
シャルティエルには、モニカのその言葉がとても嬉しそうに弾んでいるように聞こえた。
それで、とモニカは思い出したかのように振り返り、困ったようなはにかんだ笑みをシャルティエルに見せた。
「あなたのお名前は何て言うんですか?」
To be continued……
お兄さま……涙が(ry
【SOPRA・VIVERE】1章-4
遊歩道を歩く人々の足音と弾む会話。
さらさら、と遊歩道に植えられた街路樹が春風に吹かれて鳴る梢の音。その度に木漏れ日は形を変え、真白いスケッチブックに模様を作る。
しかしシャルティエルはそれらを気にも留めず、静かに鉛筆を走らせてゆく。
目線の先にはもう一つの遊歩道と、その間を流れる運河の水面を渡る小舟。シャルティエルはそれらを白と黒の世界として描いていった。
しかし、シャルティエルは鉛筆を握る手を止めた。そして無造作にスケッチブックを捲っていく。
白い画用紙の上にはどれも同じような街の風景ばかりが広がっていた。
シャルティエルは深呼吸して木陰から出ると、大きく背伸びをした。
――疲れた。
モニカの家に留まって二週間。夜盗の集団とやらは一向に捕まる気配を見せない。
日を追うごとに街全体の空気が緊迫していくのが解った。特に旅行者への厳しい視線に息が詰まりそうだ。
それだけではない。
あの女、モニカは食事から何から世話を焼き、あれこれ人のことを聞きたがる。
好きな食べ物は何かとか、出身はどこなのかとか……あとは忘れたが、それがシャルティエルには重荷だった。だから極力あの女とは行動を共にしないようにしている。
これで何もする事がないとなると、本当に気が滅入ってしまう。
シャルティエルは長いため息を吐いて、だただた流れる運河をぼんやりと見つめた。
「シャルティエル殿?」
振り返ると、背の高い短髪の男がシャルティエルの後に立っていた。
「エドウィン……さん」
「何をなさっていたのですか?」
エドウィンはシャルティエルの隣に立った。彼もまた、運河を眺める。
「……散歩してただけ」
やや視線を下げて答えるシャルティエルにそうですか、とエドウィンは表情なく頷く。
シャルティエルはこの男が苦手だった。無口で、何を考えているのか解らない。
暫しの沈黙が二人を包む。
先に痺れを切らしたのはシャルティエルの方だった。ねえ、とエドウィンの方を見る。
「いつになったら規制が解けるんだろうね。……俺、あのお嬢さんのこと苦手なんだよね。ちょっと、お節介だし」
一瞬エドウィンはシャルティエルを睨みつけるかのように鋭く見た。が、すぐに表情を和らげる。
「お嬢様はお話し相手が出来て嬉しいのです。お嬢様のご両親はあまりこちらには帰って来ませんし、今はお友だちもいないようですから」
「どうして? あの子の傍にはあんたがいる」
エドウィンは謙遜するように首を横に振った。
「シャルティエル殿がお屋敷に来てから、お嬢様は本当に楽しそうにしておられます。私には、あのようなお姿は見せては下さりませんでしたよ」
ぎこちなく微笑むエドウィンにシャルティエルは困惑する。どのように答えて良いか解らなかった。
「確かに、あなたには窮屈な思いをさせてしまっていますが、規制が解けるまでご辛抱を。我々にお任せ下さい」
「? 我々に、って……エドウィンさんも都市警備隊の人、じゃないよね」
「私は自警団の一員として都市警備隊と連携して都市を巡回しています。まぁ、状況はあまり変わっていませんが」
苦々しい顔をするエドウィンに対して、シャルティエルは幸運が舞い込んできた、と目を見開く。
「エドウィンさん」
シャルティエルは一歩前へ踏み出した。エドウィンは半歩後ずさる。
「俺も、その自警団に入れて欲しいんだけど」
シャルティエルの申し出に、エドウィンは目を丸くした。
To be continued……
微妙な訂正を。
時間は作るもの、時間は作るもの……(´・ω・`)
さらさら、と遊歩道に植えられた街路樹が春風に吹かれて鳴る梢の音。その度に木漏れ日は形を変え、真白いスケッチブックに模様を作る。
しかしシャルティエルはそれらを気にも留めず、静かに鉛筆を走らせてゆく。
目線の先にはもう一つの遊歩道と、その間を流れる運河の水面を渡る小舟。シャルティエルはそれらを白と黒の世界として描いていった。
しかし、シャルティエルは鉛筆を握る手を止めた。そして無造作にスケッチブックを捲っていく。
白い画用紙の上にはどれも同じような街の風景ばかりが広がっていた。
シャルティエルは深呼吸して木陰から出ると、大きく背伸びをした。
――疲れた。
モニカの家に留まって二週間。夜盗の集団とやらは一向に捕まる気配を見せない。
日を追うごとに街全体の空気が緊迫していくのが解った。特に旅行者への厳しい視線に息が詰まりそうだ。
それだけではない。
あの女、モニカは食事から何から世話を焼き、あれこれ人のことを聞きたがる。
好きな食べ物は何かとか、出身はどこなのかとか……あとは忘れたが、それがシャルティエルには重荷だった。だから極力あの女とは行動を共にしないようにしている。
これで何もする事がないとなると、本当に気が滅入ってしまう。
シャルティエルは長いため息を吐いて、だただた流れる運河をぼんやりと見つめた。
「シャルティエル殿?」
振り返ると、背の高い短髪の男がシャルティエルの後に立っていた。
「エドウィン……さん」
「何をなさっていたのですか?」
エドウィンはシャルティエルの隣に立った。彼もまた、運河を眺める。
「……散歩してただけ」
やや視線を下げて答えるシャルティエルにそうですか、とエドウィンは表情なく頷く。
シャルティエルはこの男が苦手だった。無口で、何を考えているのか解らない。
暫しの沈黙が二人を包む。
先に痺れを切らしたのはシャルティエルの方だった。ねえ、とエドウィンの方を見る。
「いつになったら規制が解けるんだろうね。……俺、あのお嬢さんのこと苦手なんだよね。ちょっと、お節介だし」
一瞬エドウィンはシャルティエルを睨みつけるかのように鋭く見た。が、すぐに表情を和らげる。
「お嬢様はお話し相手が出来て嬉しいのです。お嬢様のご両親はあまりこちらには帰って来ませんし、今はお友だちもいないようですから」
「どうして? あの子の傍にはあんたがいる」
エドウィンは謙遜するように首を横に振った。
「シャルティエル殿がお屋敷に来てから、お嬢様は本当に楽しそうにしておられます。私には、あのようなお姿は見せては下さりませんでしたよ」
ぎこちなく微笑むエドウィンにシャルティエルは困惑する。どのように答えて良いか解らなかった。
「確かに、あなたには窮屈な思いをさせてしまっていますが、規制が解けるまでご辛抱を。我々にお任せ下さい」
「? 我々に、って……エドウィンさんも都市警備隊の人、じゃないよね」
「私は自警団の一員として都市警備隊と連携して都市を巡回しています。まぁ、状況はあまり変わっていませんが」
苦々しい顔をするエドウィンに対して、シャルティエルは幸運が舞い込んできた、と目を見開く。
「エドウィンさん」
シャルティエルは一歩前へ踏み出した。エドウィンは半歩後ずさる。
「俺も、その自警団に入れて欲しいんだけど」
シャルティエルの申し出に、エドウィンは目を丸くした。
To be continued……
微妙な訂正を。
時間は作るもの、時間は作るもの……(´・ω・`)
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