【SOPRA・VIVERE】1章-3
「すまないね。うちはしばらく満室だよ」
同じような台詞を言われたのは六回目。歩ける範囲で回れる宿屋は全て回ったが全て断られ、シャルティエルはうなだれた。
その傍らを、白い法衣を纏った短髪の少年が通り過ぎる。片手に厚手の本を抱え、こちらを見向きもせずに悠然と階段を上っていくその少年を見送り、シャルティエルは深くため息をついた。
このまま部屋が取れなかったらどうなるのか。街灯の薄明かりと、空の下で震えながら眠っている自分の様がもやもやと浮かび上がる。
浮かんで、シャルティエルはかぶりを振った。
「どうしてどの宿も満室なの?」
シャルティエルが宿屋の店主に尋ねると、店主は目を丸くした。
「ここ最近、組織ぐるみの強盗や人攫いが頻繁でね。警備隊もどうにかしようと必死なんだが、なかなか尻尾が掴めない。それでそいつらを市外に逃亡させないために市民の外出が規制されてるのさ。特に旅行者は厳しく取り締まられている」
店主の言っている集団はモニカを攫った連中のことだと、シャルティエルは気付いた。迷惑な話だ。
「しかし……この規制は一週間前から始まったことだから、今更宿のない旅行者なんていないはずなんだがねぇ」
説明するだけして、店主はシャルティエルを上から下まで見定めた。シャルティエルは顔を引きつらせる。
「それは……」
訝しげな顔でシャルティエルを睨み付ける店主に耐え切れず、思わず後ずさった。
「こんなところにいたのね!」
シャルティエルが振り返ると、モニカが長い髪を揺らして扉を開けて入ってきた。
「どうして、あんたが」
と、眉を寄せるシャルティエルの横にモニカは並んだ。店主は目を丸くしてシャルティエルと彼女を交互に見やる。
「この人はわたしの遠縁にあたる方で、都市警備隊の候補生よ。道中で何か問題があったみたいで、それで街に着くのが一週間も遅くなってしまったの」
あまりに流暢で迷いのない作り話に、シャルティエルは呆気に取られた。
「なんと、お嬢様のご親戚の方でしたか! それは大変な目に遭われて……」
店主は手のひらを返したかのようにモニカにはもちろん、シャルティエルにも愛想をする。その態度の変わりように半身を引いてしまった。
「さあ、行きましょう。お部屋は用意してあるわ」
モニカは店主に小さく頭を下げ、シャルティエルの手を引いて宿屋を後にした。
「都市警備隊の候補生? 俺が?」
石畳で舗装された遊歩道の上、モニカのやや後ろを歩きシャルティエルは苦笑する。
「咄嗟の嘘だったけど、別に不自然なことじゃないわ。あなたくらいの年の人で、他の町から志願に来る人はたくさんいるもの」
振り返らずモニカは言った。本当かね、とシャルティエルは呟き都市警備隊の制服を纏い人々の安全を守る自分を想像しようとする。全く出来なかった。
「……誰が誰の親戚だって?」
「しばらくは、遠縁の“お兄さま”という事で」
シャルティエルには、モニカのその言葉がとても嬉しそうに弾んでいるように聞こえた。
それで、とモニカは思い出したかのように振り返り、困ったようなはにかんだ笑みをシャルティエルに見せた。
「あなたのお名前は何て言うんですか?」
To be continued……
お兄さま……涙が(ry
同じような台詞を言われたのは六回目。歩ける範囲で回れる宿屋は全て回ったが全て断られ、シャルティエルはうなだれた。
その傍らを、白い法衣を纏った短髪の少年が通り過ぎる。片手に厚手の本を抱え、こちらを見向きもせずに悠然と階段を上っていくその少年を見送り、シャルティエルは深くため息をついた。
このまま部屋が取れなかったらどうなるのか。街灯の薄明かりと、空の下で震えながら眠っている自分の様がもやもやと浮かび上がる。
浮かんで、シャルティエルはかぶりを振った。
「どうしてどの宿も満室なの?」
シャルティエルが宿屋の店主に尋ねると、店主は目を丸くした。
「ここ最近、組織ぐるみの強盗や人攫いが頻繁でね。警備隊もどうにかしようと必死なんだが、なかなか尻尾が掴めない。それでそいつらを市外に逃亡させないために市民の外出が規制されてるのさ。特に旅行者は厳しく取り締まられている」
店主の言っている集団はモニカを攫った連中のことだと、シャルティエルは気付いた。迷惑な話だ。
「しかし……この規制は一週間前から始まったことだから、今更宿のない旅行者なんていないはずなんだがねぇ」
説明するだけして、店主はシャルティエルを上から下まで見定めた。シャルティエルは顔を引きつらせる。
「それは……」
訝しげな顔でシャルティエルを睨み付ける店主に耐え切れず、思わず後ずさった。
「こんなところにいたのね!」
シャルティエルが振り返ると、モニカが長い髪を揺らして扉を開けて入ってきた。
「どうして、あんたが」
と、眉を寄せるシャルティエルの横にモニカは並んだ。店主は目を丸くしてシャルティエルと彼女を交互に見やる。
「この人はわたしの遠縁にあたる方で、都市警備隊の候補生よ。道中で何か問題があったみたいで、それで街に着くのが一週間も遅くなってしまったの」
あまりに流暢で迷いのない作り話に、シャルティエルは呆気に取られた。
「なんと、お嬢様のご親戚の方でしたか! それは大変な目に遭われて……」
店主は手のひらを返したかのようにモニカにはもちろん、シャルティエルにも愛想をする。その態度の変わりように半身を引いてしまった。
「さあ、行きましょう。お部屋は用意してあるわ」
モニカは店主に小さく頭を下げ、シャルティエルの手を引いて宿屋を後にした。
「都市警備隊の候補生? 俺が?」
石畳で舗装された遊歩道の上、モニカのやや後ろを歩きシャルティエルは苦笑する。
「咄嗟の嘘だったけど、別に不自然なことじゃないわ。あなたくらいの年の人で、他の町から志願に来る人はたくさんいるもの」
振り返らずモニカは言った。本当かね、とシャルティエルは呟き都市警備隊の制服を纏い人々の安全を守る自分を想像しようとする。全く出来なかった。
「……誰が誰の親戚だって?」
「しばらくは、遠縁の“お兄さま”という事で」
シャルティエルには、モニカのその言葉がとても嬉しそうに弾んでいるように聞こえた。
それで、とモニカは思い出したかのように振り返り、困ったようなはにかんだ笑みをシャルティエルに見せた。
「あなたのお名前は何て言うんですか?」
To be continued……
お兄さま……涙が(ry
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